『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園』感想
ロボとーちゃん以来のクレヨンしんちゃん映画を見てきました。当然ネタバレあり。
・あらすじ
小中高一貫のエリート校私立天下統一カスカベ学園、通称天カス学園に体験入学することになったかすかべ防衛隊の面々。
そこではAIが全てを管理していて、学業や部活動、風紀を守っているかどうか等に応じて付与されるポイントの多寡で所属するクラスや利用できる施設まで全く待遇が変わります。
体験入学中に高ポイントを獲得することで特待生としてこの学園に入学すべく、ポイント稼ぎに邁進する風間くんと、風間くんについていけない4人。
しかし、その風間くんは生徒のケツに噛み付くことでその生徒を幼児退行させてしまう謎の怪人「吸ケツ鬼」の犠牲に。
4人は吸ケツ鬼の正体を探るべく、生徒会長の阿月チシオと共に探偵団を結成し捜査に乗り出します。
・クレヨンしんちゃん×ミステリー
全体に非常によくできた作品なんですけど、まず秀逸なのがミステリー部分。
基本子供向けを意識しているであろう『名探偵コナン』も、荒唐無稽な部分は多々あってもまあ現実的な世界観でミステリーをやってるのに対して、クレヨンしんちゃんはコナンより対象年齢の低い、幼児向けのギャグアニメです。
映画は毎回現実離れした組織が登場するし、しんのすけもケツで歩けるし、今作もギャグじゃなきゃあり得ないような要素がてんこ盛り。
この作品がえらいのは、ちゃんとクレヨンしんちゃん映画としてのリアリティラインでミステリーしたことだと思います。
ギャグ漫画がシリアスな展開に突入した結果ギャグだからこそ許されていた設定やキャラクターが鳴りを潜めるみたいなことありますけど、今作では現実にはできるわけがないがギャグだからこそ許されるガジェットを使って犯行もその偽装工作も行われており、犯人にたどり着くロジックやその過程に挟まれるミスリードもクレヨンしんちゃんだからこそであり、きっちり成立しつつもバカバカしくて笑えます。
また、学園ナンバーワンの優等生、ナンバー2のギャル、生物部の野生児、番長……と犯人の疑いがある生徒を一人一人調べていく過程では各キャラが非常に魅力的に描かれていて、ミステリとしてのみならず、今作の最大のテーマである「青春」に厚みを与えるのに大いに貢献しています。
・風間くんの話
今作では風間くんがもう一人の主人公と言っても存在です。
風間くんの基本的な要素として「金持ちの家の子」「勉強ができる」「プライドが高い」というものがあり、エリート校に入学するため必死になるのもその設定に沿ったものではあるんですが、今作ではその根幹にある動機として
「今のみんなで同じ学校に入りたい。ずっと一緒にいたい」
「お受験でみんなと離れ離れになってしまうのが嫌」
という気持ちが描かれます。
みんなと一緒にいたいがための焦りがみんなとの断絶を生む展開になり、最終的には色々あってしんのすけと直接対決をすることになるんですが、今作では風間くんのこういった悩みに対して「みんなずっと一緒」みたいな結論は出しません。
風間くんはお受験をして私立の小学校に入るんだろうし、結果疎遠になってしまう可能性も否定しない。
しんのすけが風間くんに訴えた「先のことなんてわからないぞ」みたいな台詞は、実際幼稚園児だから将来どうなるとか考えてないのもあるんでしょうけど、メタ的には、たとえ将来疎遠になるとしても今ここにある友情が否定されるわけじゃない、現在の輝きは未来の結果によって損なわれないというメッセージでもあり、それは今作テーマの「青春」とも合致してるように思いました。
・総評
まあ、僕は青春青春言うの嫌いなのでテーマがすごく胸に響いたかって言うとそうでもそうないんですけど、それでもこの作品がものすごくよくできていることは疑いようがありません。
今作オリジナルキャラを多数出しながらその誰もが十分に掘り下げられ、いつものキャラクターであるかすかべ防衛隊もいっそう魅力的になるようなエピソードが与えられています。
エリート校の上から下まで個性豊かなキャラクターを描いたからこその、最後の「青春」が人それぞれであることや、そのどれもが無駄にはならないというメッセージも美しくまとまったんじゃないでしょうか。
クレヨンしんちゃん映画は半分も見ていないので全体での位置付けはわかりませんが、出した要素を綺麗に活かしきった、ウェルメイドな映画という指標ではこれ以上がそうそうある気はしないかな。