『図書迷宮』(十字静/MF文庫J)
世にも(かはわからないけど)珍しい 二人称小説だったり520ページという分厚さだったりで騒がれていた『図書迷宮』を読みました。
以下感想。
ネタバレへの配慮はしないので既読者かネタバレを一切気にしない方のみどうぞ。
購入時の帯には『規格外×問題作』とデカデカ印字されていて、たしかにその売り文句に偽りなしだと思います。
ただ面白い作品だったかと言われるといやって感じ。
「読者を驚かせよう」「異色作にしよう」という意図はバリバリ前面に出ていてそれはいいんですけど、結果失敗しているというか。
この作品の最大の特徴はこれ自体が『千一ページの最期の祈り』による記述であるという設定、そしてヒロイン・アルテリアが実は主人公を陥れていたと明かされてからの、その設定を存分に活かした真相が二転三転する波乱の展開なんでしょうけど……いや正直わけわかんない。
物語の根幹である記憶を改竄する魔法だとか記憶を保存できる本だとかの設定をしっかり頭に入れた上で、「これは一体どういうことなんだ!?」と作者の意図通りに振り回され、全てが明かされた時に「なるほど」と思ってくれる読者、一体どれくらいいるんでしょうか。僕はついていけませんでした。
400ページあたりで今どういう危機的状況にあって何をしなければいけないとか、そういうことを考えるのを放棄してしまいました。
この作品の複雑な設定や展開は整合性が取れているのか破綻しているのか、そういうことを気にする気にもならない。
これはどれくらいの人がそうなのかわからないんですけど、物語の論理を把握するために頭にいれる情報が極端に多い作品、いやもういいわってなるんですよね。
『デスノート』も終盤はそういう感じで流し読みだった気がします。
まあそれは僕の能力不足と言えるし、「何がなんだかよくわからないけど面白い」という作品もあるんですけど、この作品は「吸血鬼と少年の恋物語」という主軸についても魅力的だとは思えませんでした。
世界観もキャラも特に目新しい部分や好感の持てるところがなく、特に主人公の奥月くんがダメ。ヒロインであるアルテリアやエリカに対して理由があるとはいえやたら高圧的で、見ていてイライラします。コメディタッチの掛け合いも寒くて笑えないです。語り手(千一ページの最期の祈り)の語り口も寒さに拍車をかけていた感じ。
魔法バトルはまあよかった気がするんですけど、最終戦とかは長くてかったるいですね。もともと興味を喪失した状態でバトルに突入してるから尚更なんだけど、漫画でも一つの勝負が長いのはダレるのにましてや小説だからなあと。
そういうわけで楽しめはしなかったんですけど、ただこの小説のギミックは凄いと思うし、もっと削ぎ落とすところを削ぎ落とせば僕みたいな読者にも届く傑作になり得た気がします。
魔法学園モノ要素を捨てて最初からダンジョン探索一本に絞り、魔法バトルはあってもいいけどバトルより謎解きにページを割き(『ダンジョン飯』が決してバトル漫画ではないように)、設定も伝わりやすいよう簡略化し、主人公とヒロインのキャラクターの掘り下げと関係の進展をもっと丁寧に描いていくべきだったのではと。
まあこんなのは作家や出版社のことを何も考えないワガママだけど、でもこの作品に「異色」以上の面白さがあったとはやっぱり思えないよ。