『俺を好きなのはお前だけかよ』(駱駝/電撃文庫)
第22回電撃小説大賞<金賞>受賞作!
俺はパンジーこと三色院菫子が大っ嫌いだ。
なのに……俺を好きなのはお前だけかよ。
ここで質問。もし、気になる子からデートに誘われたらどうする? しかもお相手は一人じゃない。クール系美人・コスモス先輩と可愛い系幼馴染み・ひまわりという二大美少女!! 意気揚々と待ち合わせ場所に向かうよね。そして告げられた『想い』とは! ……親友との『恋愛相談』かぁハハハ。
……やめだ! やめやめ! 『鈍感系無害キャラ』という偽りの姿から、つい本来の俺に戻ったね。でもここで俺は腐ったりなんかしない。なぜなら、恋愛相談に真摯に向き合い二人の信頼を勝ち取れば、俺のことを好きになってくれるかもしれないからな! ん? 誰が小物感ハンパないって?
そんな俺の哀しい孤軍奮闘っぷりを、傍で見つめる少女がいた。パンジーこと三色院菫子。三つ編みメガネな陰気なヤツ。まぁなんというか、俺はコイツが嫌いです。だって俺にだけ超毒舌で、いつも俺を困らせて楽しんでいるからね。だから、コイツとは関わりたくないってわけ。
なのに……俺を好きなのはお前だけかよ。
レビューには「メタラブコメ」みたいな評価が見られて、そういった試みがあることは否定しないんですけど、一番強く出ているのはギャグ漫画性かなと思いました。
読者に話しかけるなんて序の口、一人称の地の文で平然と噓をつく主人公だとか、地の文での主人公の独白がなぜか見えているヒロインだとか(読心能力を持っているとかいう設定ではない)。
そしてこれらのギャグ要素はその場その場のギャグに留まらず、割りとしっかり本筋に組み込まれています。
小説の話なのにギャグ漫画ギャグ漫画言って申し訳ないんですけど、「ギャグ漫画だから許される表現」をこの作品は小説に持ち込み、その一環としてのメタという感じ。
ギャグ漫画的ノリの許容される世界がきちんと構築されていて、単純に上手い小説というだけでない、「こんなこともできるんだなあ」という感動がありました。
また、どんどんややこしくなっていく恋愛関係のおかしさ、主人公の共感できるラインのクズさと何だかんだで人が良いというバランスの取れた造形(特に親友のことがやたら好きなのが好感度高い)、クライマックスでの怒涛の展開とそこに至るまで幾つも張られていたことがわかる伏線など、「単純に上手い小説」としても唸らされるものがあります。
序盤は読むのが苦痛なんですけど、100ページあたりで主人公の一人称が切り替わったところから一気に面白くなりました。
レビューを見るとかなり賛否別れるようだけど、個人的にはこれまで読んだ電撃大賞受賞作で一番好き。
以下は核心部分に触れていますので、既読の方のみどうぞ。
まあ、正直ジョーロくんのサンちゃん大好きっぷりが好感度高かっただけにサンちゃんがクライマックスでゲスな本性を露わにする展開は相当がっかりだったし、パンジーに対してしようとした行為(レイプだよね?)はいくらなんでも度を越してて、後で反省して謝ったからフォローしきれてるとは到底思えないのがけっこうな減点要素なんですが。
あと、ラブコメのお約束に「そんなわけないじゃん」とツッコむ芸風なだけに、パンジーについて「眼鏡外したら超美人」という最早ギャグ漫画でも見ないネタをそのまま採用してるのはどうなんだとか。
そういう残念さはあるんだけど、それでもこの作品の上手さは傑出していると思います。