サンライトノート

主に映画や小説、漫画等の感想を一定量吐き出したい欲を満たすためのブログです。本が出るとかなったら告知もするかもしれません。

『異セカイ系』(名倉編/講談社タイガ)

 

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

Web小説投稿サイトで人気ランク10位入りを果たした主人公が突如自分の小説『臥竜転生』の世界に転移する(主人公に意識が乗り移る)能力を手に入れ、その現象を巡る謎を解くミステリー小説。

(いやあんまミステリーってつもりで読んでたわけじゃないけどメフィスト賞受賞作だしミステリーなんでしょ多分)(他のメフィスト賞受賞作読んだことなし)

未読で「ちょっと気になるな~でもどうだろうな~」くらいの方向けに言っておくと、まずいわゆる「なろう系メタ」では全然ありません。

作中作『臥竜転生』はたしかに「なろう系」のイメージなんだろうけど、言ってしまえばそれは別にどうでもいいです。(『異セカイ系』というタイトルに重ねるためとか、自分の作中世界へと転移する主人公と作中作主人公の異世界転生を重ねるとか、異世界モノジャンルであるメリットは多々あるけど作品のテーマ的にこれじゃなきゃダメ、みたいな話ではない)

この作品がテーマとして扱っているのはメタフィクションであり、作者とキャラクターの関係性です。

作品世界を、自分が「現実」と思ってきた世界と同等に感じるようになった主人公は罪悪感に苛まれます。罪悪感の対象は展開を盛り上げるためにヒロインの母をはじめ大勢の人物が命を落とすことだったり、作者が「愛する」と書いたからヒロインが主人公(に意識が乗り移った作者)を愛することだったり、つまり「作者がキャラクターの何もかもを好き勝手にする」というフィクションの構造そのものです。

フィクションのキャラクターというのは大前提として作者の操り人形で、作者にとっての創作の楽しさ、読者にとっての面白さのためにどう使おうとそれ自体を咎められる筋合いは本来ありません。

ただ一方でそうした姿勢に後ろめたさを感じてしまう人間も少なからずいるのではと思うし、だからこういう作品が書かれたのでしょう。(やってないので詳しいことはわかりませんが『ダンガンロンパ3』もこれに似たテーマを扱っているとか)

主人公も、文字通り身を以てそれを味わうことになります。

ヒロインが主人公を愛そうと嫌おうとどっちにせよその意志は見せかけであり、罪悪感を抱くなんてのは自分の気持ちを軽くしたいがためのパフォーマンスに過ぎない、と主人公自身も言及していて、だから一切罪悪感なしに自分に都合のいい世界を思う存分満喫している方がむしろ筋が通っているのかもしれません。

ただそこまで剛気にはなれず、自分の筋書きによって自分を愛しているだけのヒロインにそれでも恋愛感情を持ってしまう主人公が「作者とキャラクターは愛し合えるのか」という問いかけに挑むのがこの物語です。

そういうのを抜きにしても、理解不能な状況に対しそれまでの出来事から「こういうルールがあるのでは」と推測・検証し危機の打開策を模索していく過程はわくわくするし、現実には到底起こりえない状況での面倒くさい思考実験の楽しさとか先の予想がつかない展開だとかびっくりするような形での伏線回収だとか非常に楽しい作品だったと思います。

主人公の地の文のノリとか語彙がインターネットの特定の界隈を露骨に連想させるあたりとか万人向けとも言いづらいんですが、「メタ」というテーマに関心のある人ならなろう系とか異世界モノのお約束とか何も知らなくてもオススメ。