サンライトノート

主に映画や小説、漫画等の感想を一定量吐き出したい欲を満たすためのブログです。本が出るとかなったら告知もするかもしれません。

『来る』(中島哲也/2018)感想

映画『来る』公式サイト


岡田准一×黒木華×小松菜奈主演!映画「来る」予告

 

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

 

 イクメンパパのもとに地元に伝わる謎の妖怪が現れて家族が危機に陥り、霊能者に助けを求め~、というホラー小説の映画化作品。

 

見た感想としては、原作を踏襲している部分と、大きく変えてきた部分があり、変更箇所の評価も自分の中ではプラスマイナス両方あるかなって感じ。


まず原作通りの点について言うと、まあ

基本的な人物の配置や話の流れはだいたい原作通りなんですけど、その中で特筆すべきは地獄の人間模様。


原作ではイクメン会社員・田原秀樹の、いいパパを気取りながら妻子を承認欲求を満たすためのアクセサリー扱いする醜悪さが徐々に見えてくる構成になっているところを、映画では序盤からアクセル全開。

ナチュラルにセクハラが横行する地獄の法事に始まり、田原夫妻の結婚式もホームパーティもパパ友オフも薄ら寒さを隠そうとしません。

妻夫木聡は平時の空回りした陽気さと垣間見える下衆さの演技が上手すぎるし、後半の黒木華演じる妻の職場(伊集院光演じるスーパーの店長の「それ暴力だからね?」の言い方がリアル過ぎ)まであまりにも生々しいキツさに満ち満ちていて、人類滅んでくれ~という気持ちに。


似たような題材で言うと万引き家族なんかもそうなんですけど、あっちはキツさもありながら鑑賞中の気持ちはそこまで落ち込まないのに対し、こちらは終始目を背けたくてたまりませんでした。

人類が嫌になる映画。

 

派手な霊能バトルに関しては、原作通りというか、原作の要素をよりプッシュしたような印象を受けました。

原作では霊能者が軒並み敗退した後で満を持して登場した最強霊媒師比嘉琴子が単身怪異を相手取るのに対し、映画では琴子のみならず全国各地から集結した宮司やら坊さんやら巫女やらユタやらバラエティ豊かな霊能者による総力戦となっており、現代社会で超常的な脅威に大勢のプロフェッショナルが一丸となって立ち向かうあたりはたしかにホラー版シン・ゴジラといった雰囲気。

原作では比嘉琴子が登場する前の噛ませ犬でしかなかった逢坂セツ子は柴田理恵の熱演で物凄い雰囲気のあるキャラクターになっているし、頭に御札を貼り付けて自撮りするJK霊能者や、新幹線の車内で迫る脅威を察知し「一人くらいは生き残れるやろ」とリスク分散のためにバラバラになって死地へ赴く名もなき霊能おじさんたちなど、とにかく名もないキャラクターを立てて先の展開に期待を持たせるのが巧み。

正直、原作は霊能バトル展開になってからは消化試合っぽさがあって興醒めと個人的に思ってるんですけど、チープになりそうなところであからさまにフィクション的な要素を敢えてガンガン投入することでエンタメ方向に振り切って盛り上げに成功していたと思います。

 

 原作から大きく変わった部分について言うと、まず怪異の掘り下げパートが大幅オミット。

原作では『ぼぎわん』という怪異の呼び名の由来に始まって、それが住んでいたとされる場所や正体まで解明していくのですが、映画ではそのへんほぼほぼカット。

「主人公の田舎に伝わる、なんかすごく怖い化け物」くらいの扱いになり、「ぼぎわん」という名前も一応登場はするものの実際に登場人物が化け物を指して呼んだわけでもなくどうでもいい雰囲気。

掘り下げがオミットされたのは間違いなく尺の都合で、映画でやってもあまり面白くならなそうな部分を削ろうというのはわかるしそれでも二時間を軽く超える長い映画なんだからしゃあないとも思うんですけど、残念だなとも。

原作での『ぼぎわん』は

 

・捨てられた子の霊から生まれた妖怪で、仲間を増やすために新たな子供を欲する

・数百年前の貧しい農民は口減らしのためにぼぎわんに子を与え続けていた

・夫から暴力を受けていた田原秀樹の祖母が報復のために行った悪いものを引き寄せる呪術で図らずぼぎわんを呼び込んでしまった

 

と、正体や田原家を付け狙う経緯が明快かつ作品全体と噛み合うテーマ性があり、この映画でもそれは残してほしかったんですよね。

映画での「嘘つきは連れて行かれる~」とか「子供が死に惹かれるように死の世界の住人も子供に惹かれる~」とかの理由付けは、やはり原作に比べるとぼんやりした印象です。

また、変わった部分は結末もそうで、こちらもよくわかりません。脅威は去ったの? 去ってないの? オムライスの国の夢は何を意味してるの?

個人的には「よくわからない」作品が好きじゃないので原作通りの(一応の)ハッピーエンドでも逆にさだかやみたいな破滅エンドでもいいのでちゃんと提示して欲しい。

キャラクターはほぼほぼ原作通りの者もいればちょこちょこ変わっている者もいたんですが、総じてキャストの演技のレベルが高く、どの人物も「映画『来る』」の登場人物としてしっかりしたリアリティを持っているのは役者って凄いなと思わされました。

 

 

終わり方にはモヤッとしたものが残るし、手放しで称賛はできないけど、でもまあ楽しめる部分はたくさんある映画だったのでそれなりに好きです。

ところで、怪異が怖いか怖くないかで言うと全然怖くないんですけど、これは身も蓋もないことを言うと映像が綺麗だからというのがデカいでしょうね多分。

現代の映像で怪異のビジュアルをドンッと出してチープに見えないの、ハードルが高いんだろうな……。