サンライトノート

主に映画や小説、漫画等の感想を一定量吐き出したい欲を満たすためのブログです。本が出るとかなったら告知もするかもしれません。

『ラン・オーバー』(稲庭淳/講談社ラノベ文庫)

あけましておめでとうございます。

2018年は小説100冊は読むと決め、とりあえず元旦に以前から積んでいた作品1冊を消化することができました。

100冊全てに対して記事を書けるとは思いませんが、とりあえず新作(今回のは2015年刊行だけど)についてはできるだけこうしてブログにも感想を綴っていこうと思います。

ラン・オーバー (講談社ラノベ文庫)

ラン・オーバー (講談社ラノベ文庫)

 

湊里香が転校してきてから、クラスは一変する。いじめのターゲットにされても動じない彼女はあるとき伊園を呼び出した。湊に秘密を知られた伊園は、言われるがまま同棲生活をスタートさせる。不思議な彼女は伊園にあることを提案する。それはいじめのリーダーカップルに反撃すること。はじめは気乗りしなかった伊園も、次第に湊の意見に賛同するように。いじめのターゲットの原を巻き込み、三人の過激な反乱が始まが、湊の本当の目的は誰にも想像がつかない恐ろしいものだった……。第4回講談社ラノベ文庫新人賞佳作受賞作。(「内容紹介」より)

 

いじめやそれに対する報復の描写はあまりに生々しいし、主人公やヒロインの動機も義憤にはほど遠いし、そもそも主人公が趣味的にスリを行っているような人間だしで、復讐モノとしてカタルシスが得られるような作品ではないと思います。

この作品の面白さは、それでも彼らの行いに妙な共感を抱かされるところじゃないでしょうか。

この作品で描かれるいじめグループへの制裁はしかし制裁の枠を完全に飛び越していて(いじめ被害者の生徒はそのつもりだけど主人公たちの動機は明らかにそこにはない)、かといって「クソみたいなクラスが気に入らないからみんなぶっ殺してやりたい」という主人公の語る動機すら、嘘ではないけれども最重要ではないように感じられます。

「目の前で話している相手の顔を思いきりぶん殴ったらどうなるんだろう」「階段で自分の下を降りている人の背中を思いきり蹴飛ばしたら」

もちろん実行はしないんですけど、そういう誘惑に駆られることは多分多くの人があるんじゃないでしょうか。

自分も含めて何もかもどうでもいいから気分任せの暴力で全部ぶっ壊してやりたい、そういう願望を本当に実行してしまった人間がこの作品の主人公やヒロインで、そこには危険な魅力が潜んでいます。

また、極めて反社会的な行為が平然と描かれながら読んでいて気が重くならないのは軽妙な文章の成せる業でしょう。

主人公のスリテクニックが現実離れしたレベルだとかあれだけやりたい放題やっておきながら計画完遂まで何の妨害も入らないのは都合が良すぎないかとかツッコみたくなる面がないでもないんですが(あと、内容と挿絵の雰囲気が全く合わないのでそれこそ押見修造とかそれ系の絵柄の人に描いてもらうべきだったと思う)、それを差し引いても十分面白い作品じゃないかと。

主人公サイドのキャラがクズでロクに制裁も受けないのは嫌い、という人はふつうに嫌悪感を抱くと思いますが(反撃を食らって負傷とかはするけど、「罰」と言えるようなものは最後までありません)、全然ありで、むしろどんどん胸糞悪い行為に手を染めて欲しいという人にはおすすめ。