『ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話』(七瀬夏扉/富士見L文庫)
表紙のデザインを気に入ったことがきっかけで読みました。個人的ラノベベストカバー2017。
ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話 (富士見L文庫)
- 作者: 七瀬夏扉,吉田健一
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/12/15
- メディア: 文庫
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幼いころ僕が出会った外国の女の子ユーリヤ。子どもながらに生き難さを感じていた僕たちは、見上げる月に憧れの世界を抱き、やがてその夢の実現を目指す。でもそれは、二人が離ればなれになることを意味していて――(Amazonの商品説明より)
だいたいこのあらすじから大きく外れる、読者をびっくりさせるような出来事は起こりません。
人類初の宇宙飛行士から名前をもらった少女・ユーリヤと、「自分に付き従う衛星」という意味で彼女から「スプートニク」と呼ばれる主人公。
幼い頃はいつも一緒だった二人は成長する過程で溝が生まれ、しかしやがてまた、「宇宙へ行く」という幼い頃からの夢のためにそれぞれ別な場所で走り出す。
けれど高校生になって再会した時、彼女の秘密を知ってしまい――という。
この作品はモチーフやテーマの解釈、キャラクター造形が斬新だったり強烈な個性があったりするわけではありません。
宇宙に夢を求める人々の物語も、ボーイ・ミーツ・ガールもそれらの組み合わせも、きっと先行作品はいくつもあるのでしょう。
そんな中でこの小説は、特に珍しくないテーマをひたすらに瑞々しく、鮮やかに描き出しています。
少年少女の幼い頃の関係性が成長に従い徐々に変化していくその機微、少年とユーリヤそれぞれが東京と種子島で送る日々、地に足の着いた魅力的なSFパート、全体を通して貫かれる遠く離れた世界への憧憬。
物語を構成する全てにわたって美しく、魅力的でありたいという意識が行き届いているように感じました。
何かが強く主張しているというわけでなくとも全体を通して素晴らしい、万人にオススメできる作品だと思います。
表紙をはじめイラストがとても綺麗なので是非本を買って欲しいんですが、『先生とそのお布団』同様こちらもカクヨム発の作品なので、少しでも気になったという方はまずはカクヨム版からでも(自分はカクヨム版未読で、この一冊きりで完結だと思っていたんですけどどうも物語はここからも長いらしいですね……)。
どうでもいいんですけど、劇中で引用(?)される『Fly Me to the Moon』、自分は「エヴァのEDとして作られた曲」だとだいぶ長いこと思っていました。
エヴァ以前から超有名な曲らしいので恥ずかしいんですけど、同じ勘違いしていた人はいったいどれくらいいるのだろうか。割りといて欲しい。