サンライトノート

主に映画や小説、漫画等の感想を一定量吐き出したい欲を満たすためのブログです。本が出るとかなったら告知もするかもしれません。

『万引き家族』(是枝裕和/2018)感想

二ヶ月更新してなくていい加減なんか書こうと思ったので先日見た映画の感想をば。

表沙汰にしづらい事情を抱えた擬似家族の、普段の暮らしとその日々が終わりを告げるまでを描いた作品。

 


【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告

 

 

見る前と見た後でけっこう印象のちがう作品で、「家業は犯罪」というほど万引きで食ってるわけじゃない(大部分の収入はおそらくふつうに労働で得ている)というのもありますが、一番は彼らの関係の描き方で、見る前は「許されないことをしているけど、彼らの間にはたしかな絆が~」みたいな、なんかそういうやつだと思ってたんですよね。

実際のところ、夫婦役である治と信代は家の持ち主の老婆・初枝を当人のいないところで口汚く罵る(実際初枝は多分劇中で一番悪どい人間なんですけど)し、治は可哀想な子供を拾ってきては自分を父ちゃんと呼ばせてかわいがる一方で「息子」の祥太に万引きの手口を教え、自分が車上荒らしする際に人が来ないか見張らせ、あまつさえ祥太が警察に捕まって自分たちのことが露見しそうになったら一家揃って逃亡を図る始末。

警察の人が祥太に「本当の家族なら捕まった君を置いて逃げたりしないよね?」みたいなことを言ってて、この台詞の是非はともかく、劇中の彼らは実の親子以上に固い絆で結ばれた家族とか、そういうのからは程遠いです。

しかしじゃあ彼らの絆は偽物かって話かというとそう単純でもなく、治と信代の間には互いに相手の罪を被るくらいには情があるし、治は祥太の「父ちゃん」になりたいとたしかに思ってる(だからこそ、保身に走った事実を突きつけられて「父ちゃん」から身を引かざるを得なくなる)し、背後にあるのが利害関係でも、家族の団欒だとか海へ遊びに行くだとか、そういう場面では彼らは間違いなく楽しそうなんですよね。

また、「本当の家族」だって必ずしも温かい絆で結ばれてるわけじゃないし、虐待とかそういう事例を抜きにしても、みんなお互いのことが大好きという家族関係はむしろ少数派なんじゃないでしょうか(このへんの見方は自分の家庭環境が多分に影響しそうだけど)。

決してハートフルストーリーじゃないし最後も後味が悪いんですが、かといって露悪的な印象的もなく、凄くバランスの取れた形で複雑な人間を複雑なままに描いた映画だったと思います。

エンタメって感じにまとまった話ではないので人を選ぶと思うけど、個人的には好きです。